前回の内容を踏まえて,今回は法則の中身に入りたいと思います。 前回の記事はこちらから↓
熱力学第1法則の式
熱力学第1法則は,前回紹介したQ,U,Wを用いて,
Q = ⊿U + W
と書くことができます。
高校物理は比例関係の公式が多いので,このように足し算で書かれる公式は珍しいです。 Uに変化量を表す⊿(デルタ)がくっついていることに注意してください。
(つまり,⊿Uは内部エネルギーがどれだけ変化したか,を表す)
式はとても簡単ですが,この式は一体何を意味しているのでしょう?
熱力学第1法則の意味
この式は,「物体に熱を与えたとき,その熱がどのように使われるか」を示しています(物体と書きましたが,以後気体として話を進めます)。
「気体に熱を加えると何が起こるか?」と質問されたら,ほとんどの人が「温度が上昇する」と答えると思います。 この「温度の上昇」に対応するのが⊿Uです(前記事参照。温度が上がると内部エネルギーUも増加する)。
上の質問に対する答えはもうひとつあります。 それは「気体が膨張する」ということです。 袋に入ったパンをレンジでチンすると袋がパンパンに膨れますよね?
「気体が膨張する」は物理の言葉で表現すると,「気体が(外部に)仕事をする」です。 この「気体のする仕事」に対応するのがWということになります。
以上まとめると,熱力学の第1法則とは,
「気体に熱を加えると,その熱は温度上昇(内部エネルギーの増加)と体積の膨張(外部にする仕事)に使われる。
そして,温度上昇に使われた分と膨張に使われた分を合計すると,はじめに与えた熱量に等しい。」
ということを主張しています。
大事なのは後半部分。 使われたエネルギーは与えた熱エネルギーに等しい。
これはつまり,「エネルギーは保存する」という一言に尽きます。
熱力学第1法則のイメージ
第1法則は人間に例えると覚えやすいです。
我々は食べ物を食べてエネルギーを摂取しますが,これが第1法則のQに該当します(カロリー=熱量を摂取していますよね!)。
そして,食べて摂取したエネルギーを使って活動(=仕事)するわけですが,これはWに相当します。
ところで,食べた分しっかり仕事をすればプラスマイナスゼロですが,仕事しないで寝たらどうなるでしょう??
そう,太ってしまいます! 食べた分のエネルギーのうち,仕事に使われなかった分が脂肪になります。 脂肪とは体の中に蓄えられたエネルギーということで,これを内部エネルギーの増加⊿Uに例えましょう。
以上のことをまとめると,
Q(食べた分)=⊿U(脂肪)+W(活動)
このようにイメージすると覚えやすいのでオススメです!
重要な注意事項①:数値の代入について
熱力学第1法則を使う場合に一番気をつけなければいけないのは符号。 例えば「気体に50Jの熱を加えた」とあればQ=50と代入しますが,「50Jの熱量を放出した」とあったら,Qにはー50を代入する必要があります。
このように,問題文の設定に応じて,必要ならばマイナスをつけなければいけないので注意しましょう!
詳しくはまとめノートに書いておきます。
重要な注意事項②:Wの定義について
これは上の注意①と関連した話なのですが,手元に教科書がある人は熱力学第1法則が載っているページを見てください。
教科書によっては(というかほとんどの教科書では)「⊿U=Q+W」と書かれていると思います。
ですが,この記事の冒頭で紹介した式はQ=⊿U+Wの形でした。 移項してもこの2つの式は一致しません!
熱力学第1法則は,このように教科書によって書き方にちがいがあります。
もちろんどちらも正しいのですが,2種類あることによって熱力学第1法則がわかりにくくなっている感は否めません。 式が異なるのにどちらも正しいとは一体どういうことなのか。
そのトリックは「Wが何を表しているか」にあります。
⊿U=Q+Wと書かれている教科書を持っている人は,Wが何を表しているのかよく見てください。
「気体が外部から “された” 仕事」と書かれているはずです!
一方このサイトでは,Wは「気体が外部に “した” 仕事」としています。
“した” と “された” では意味が真逆!!
要するに,こういうことです↓
Q=⊿U+Wを使って計算するときは,気体がした仕事 → +,された仕事 → ー,として代入。
⊿U=Q+Wを使って計算するときは,気体がされた仕事 → +,した仕事 → ー,として代入。
Wの符号にさえ気をつければどちらを使っても構いませんが,このサイトでは今後も一貫してQ=⊿U+Wの式を採用します。 ご了承ください。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジして,法則の使い方をマスターしましょう。
次回予告
次回は熱を仕事に変える装置のお話です。