核兵器の問題や原子力発電の是非など,避けては通れない議論の中で必ず登場する「放射線」。 特に世界唯一の被爆国である日本人は「放射線=悪」という感情をもってしまいがちですが,いつまでも感情論ではいけません。
放射線とはそもそも何なのかを知り,正しい知識のもとで理性的な判断を下すことが重要。
それではさっそく,放射線について学んでいきましょう!
用語は正しく使おう
放射線に関連する用語はいくつかありますが,ニュースなどを見ていると,それらの用語がごちゃまぜになって使われていることもしばしば。 みなさんはぜひ正しい用語をマスターしてください!
世の中には “不安定な” 原子核というものが存在します。 “不安定” というのは,原子核内部の陽子数と中性子数のバランスが悪い,ぐらいの意味だと思ってください。
不安定な原子核は,何とかして安定な状態になりたい!と考えているので,余分な粒子やエネルギーを放出して,安定な状態へ移行していきます。
原子番号の大きな元素(有名どころではウランやラジウムなど)は基本的に不安定ですが,小さい原子番号でも中性子の数が変わる(同位体!)と不安定になったりします。 以上のことを踏まえた上で,いよいよ用語を紹介!
〈放射線に関連する用語〉
放射線 … 不安定な原子核が出す高エネルギーの粒子や電磁波。
放射性崩壊 … 不安定な原子核が放射線を出して,安定な原子核に変わること。
放射能 … 放射線を出す能力。
放射性物質 … 放射線を出すことができる物質(=放射能をもつ物質)。
放射性同位体 … 同位体のうち,放射能をもつもの。
安定同位体 … 同位体のうち,放射能をもたないもの。
放射性元素 … 安定同位体をもたない元素。
用語盛りだくさんですが,特に注意してほしいのは,「放射線」と「放射能」のちがい。
この2つをイコールだと思っている人がめちゃくちゃ多い…。 一般人だけでなく,正しい情報を伝える立場のニュース原稿でもまちがっていたり…(苦笑)
例えば,「地震がありましたが,放射能の漏れはありませんでした」という日本語はNG。 放射能というのは “能力” のことなので,「漏れる」って表現は変です。 物体じゃないんだから(^_^;)
漏れるとしたら放射線か放射性物質。 放射能に関しては,「放射能をもつ or もたない」という表現が正しいわけです。
放射線の性質
用語だけでだいぶ長くなってしまいましたが,放射線の性質について見ていきましょう。 放射線がもつ主な性質は,
・物質を透過すること
・原子がもつ電子を弾き飛ばしてイオンにすること(電離作用)
です。
放射線が人体に悪影響である理由は,皮膚を透過して体の内部に入り込み,電離作用によって細胞に影響を与えるから。
ところで,原子核から放出される放射線には,α線(アルファ線),β線(ベータ線),γ線(ガンマ線)と呼ばれる3種類があり,それぞれで透過力や電離作用が異なります。 このちがいは重要なので,まとめておきます!
今回のまとめノート
説明の前にまとめノートを出しておきましょう。
(α線,β線,γ線は発見された当初その正体が不明だったので,「とりあえず文字で置いておくか…」的なノリで付けられた仮の名前ですが,正体が判明した現在でもそう呼ばれています。)
各放射線の透過力と電離作用の強さは丸暗記するのではなく,粒子の大きさで理解してください!
β線を基準(正体は電子,透過力:中,電離作用:中)に考えると,α線はヘリウムの原子核なので非常に大きいです。 大きいということは,あまり物質を通り抜けることはできません(透過力:小)が,ぶつかったときの衝撃は大きい(電離作用:大)です。
一方,γ線は電磁波なので,通り抜けはお手のもの(透過力:大)。 その代わり,ぶつかっても衝撃は小さい(電離作用:小)です。
(※ あくまでβ線を基準にしたときの大小なので,電離作用の小さいγ線なら浴びても平気,ということではありません!)
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
放射線を出した後,原子核がどのように変化するのかについて詳しく学習していきます!