原子の構造に関する論争はラザフォードの実験によって終止符が打たれたと思われましたが,ミクロの世界はそんなに単純ではないようで,まだ話は続いていきます。
ラザフォードモデルの欠点
ラザフォードの原子モデルを簡単におさらいしておくと,「原子核のまわりを電子が回っている」というものでした。
一見なにも問題ないように聞こえますが,重大な欠点が潜んでいます。 何だかわかりますか? もし電子が本当に回っているとしたら何が起こるかを,順を追って考えてみましょう。
電子が原子核のまわりを回る
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電子が円運動する=円形電流が流れていると解釈できる
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円形電流は中心に磁場をつくる
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磁場が新たな電場をつくり,その電場がまた磁場をつくり,…(以下繰り返し)
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電子は電磁波を放射する
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放射した分だけエネルギーが減るので,電子は円軌道を維持できない(徐々に半径が小さくなり,最終的に原子核と合体してしまう)!
このように,ラザフォードモデルでは原子が安定して存在できないことになってしまいます。 現実には原子は安定した形で存在しているわけだから,これは大問題!!
ボーアの水素原子モデル
そんな中,ニールス・ボーアという人物がこの問題にひとつの解決を与えます。 ヒントは,電子の粒子性と波動性。 ボーアは,ある条件を満たしていれば原子はラザフォードの言ったとおりに存在できることを提唱しました。
ボーアの唱えた原子モデルとは,ド・ブロイの物質波の考えを用いると,「電子は粒子として原子核のまわりに波として存在している」ということができます。
(注:実際はド・ブロイが物質波を提唱したのはボーアの原子モデルよりも後なので,ここでの説明は史実とは順番が前後していますが,わかりやすさを優先します。)
以前の記事でも注意しましたが,もう一度同じ注意を。 図の中の緑のウネウネは電子の移動経路を表しているのではなく,波そのものを表しています!!
さて,電子を “原子核を取り巻く波” として存在していると考えた場合,その波長にはある条件が課せられることがわかります。
ボーアの原子モデルでは,「電子が量子条件を満たすとき,電子は電磁波を放出せず安定して存在する」と考えます。
ボーアモデルから導かれる事実
突然ですが,ここで水素原子に関するちょっとした計算をしてみましょう。
ところが最初に言った通り,このままだと電磁波を放出してしまい,この円軌道が維持できません。
ここで量子条件の登場。 量子条件の式を満たしていれば,電子は電磁波を放出せず安定した状態(定常状態)となります。
連立方程式によって,電子の円軌道の半径が得られました。 この半径の式,かなり面白いことになってますよ!!
図で表すとこんな感じ。
!!!!これって,まさに化学の授業で習ったK殻,L殻,M殻,…ってやつそのものじゃないですか!?
化学の授業では,どうしてK殻とL殻の中間に電子が入ってはいけないのか,そこについての説明はありませんでしたが,その理由がいま計算によって明らかにされました!
つまり,K殻,L殻,…,という特定の半径以外の場所では電子は定常状態になれないため,安定して存在できないというわけです。 化学の序盤で張られた伏線が,物理の最後の最後で回収されるという壮大な仕掛け(?)なのでした。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
ボーアモデルが導くのは半径だけじゃありません。 次回はエネルギーの観点から考察してみましょう!