ミクロの世界の話をするのに欠かせない存在,それが電子です。
今回は時代をさかのぼり,電子が発見された経緯についての知識を深めましょう。
真空放電
空気などの気体は不導体(絶縁体)に分類され,ふつうは電気を通しません。
しかし,極端に高い電圧がかかると電流が流れるようになります(放電という)。 雷や冬場のドアノブの「バチッ!」が正にそれ。
さて,放電を人工的に発生させることを考えましょう。 以下のような装置を用意します!
管内の気体の圧力が高い状態では放電が起こりにくいため,中の気体を徐々に抜いていきましょう。 すると…
こんな感じで,光によって気体の放電(真空放電)を確認することができます。
(※ “真空” 放電といいつつ,ガラス管内には気体が残っている。 名前変えろ)
この調子で気体を抜き続けて管内がほぼ真空になると,気体の光は消え,代わりに陽極側のガラス管の壁が明るく光ります。
この状態,ちょっと不思議ですよね? 管内に気体がほぼ残っていないわけだから,気体の光が消えるのはわかります。 だけど,陽極側のガラスが光るってなんじゃそりゃ??
このような現象が起こる理由について19世紀の物理学者たちは,「陰極から飛び出した “何か” が陽極側のガラス壁にぶつかり,その “何か” がもっていた運動エネルギーが光エネルギーに変換されている」と考えました。
正体はわからないけれど,とりあえず陰極から出ていることだけは確からしいので,この “何か” は陰極線と名付けられました。
この後,陰極線の正体を突き止めるべく,さまざまな実験が行われることになります。
陰極線の性質
実験で明らかになった,陰極線のもつ性質を一挙に紹介!
性質①:蛍光物質を発光させる
性質②:写真フィルムを感光する(化学変化を起こす)
性質③:直進する
この性質③を見ると,「陰極線って光(電磁波)なのかな?」って思ってしまいますが,次の性質④によってそれは否定されます。
性質④:電場や磁場をかけると進路が曲がる
陰極線自体は目に見えないので,曲がることを確認するには下準備が必要です。
準備が済んだところで,陰極線に電場や磁場をかけてみましょう!
電磁波が電場や磁場で曲がらないことは当時すでに知られていたので,陰極線の正体は電磁波ではなく荷電粒子,しかも曲がる向きを考えると負の荷電粒子であることがわかります!
性質⑤:電極を他の金属に変えても,ガラス管内の気体の種類を変えても,上記の性質①〜④は変わらない。
まとめると,陰極線の正体は,陰極の金属から飛び出す「負の電荷をもつ粒子の流れ」であり,その粒子はすべての金属に共通に含まれていることがわかります。
当時,原子より小さい物質は存在しないと考えられていたので,この陰極線の正体も新しい原子かと思われました。 ところが,J.J.トムソンやミリカンらの実験によって,この粒子の電気量や質量が明らかになると,「原子この世で一番小さい説」は崩れ去ることになります!
かくして,原子よりはるかに小さく,特定の電気量と特定の質量をもつ負電荷が存在することが判明し,電子と名付けられましたとさ。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
電子の発見はそれまでの「物体を分割していくと最後は原子になる」という常識を変える事態にまで発展していきます!