科学界の最高の名誉,ノーベル賞。 日本でも,日本人が受賞したときだけ大いに盛り上がります(皮肉)。
ところでノーベル物理学賞の記念すべき第1回目の受賞者と,その功績についてご存知ですか? 物理をやっている人間ならぜひ知っておきたいところ!!
X線とは何か
先ほどの答えですが,第1回ノーベル物理学賞受賞者はレントゲン博士で,受賞理由は「X線の発見」。
レントゲンが人の名前だったことをいま初めて知った人もいると思いますが,健康診断や歯医者で撮るレントゲン写真はまさにX線を利用したものです。
人体に照射した場合,X線は皮膚や筋肉を透過しますが,骨はX線を通しません。 その結果,骨の部分だけが写真に映るというわけ。
そんな不思議な性質をもつX線ですが,当初はその正体が不明だったので,“分からないものはXとおく” という数学の慣例に倣って,X線と命名されました。 もちろん現在は正体が判明しており,「X線 = 紫外線よりも波長が短い電磁波」です。
X線の性質は放射線の講義に譲るとして(X線は放射線の一種!),今回はX線の発生について詳しく見ていきましょう。
X線スペクトル
まず,X線を発生させるのによく使われる装置であるX線管の構造と,その原理を紹介しましょう。
このとき発生したX線の波長と強度の関係(スペクトルと呼ぶ)を表したグラフは以下のようになります。
これはかなり特徴的な形…! 特定の波長のところで,X線が非常に強く放射されているのがわかりますね!
このX線のことを固有X線(または特性X線)といいます。 また,固有X線以外の波長は連続X線と呼ばれ,このときのグラフはなめらかな曲線です。
X線スペクトルはなぜこのような形になるのでしょうか?
連続X線について
陰極を出て加速された電子がは陽極に向かって進みます。
電子が原子とぶつからずに進路が曲げられた場合,電子はもっていたエネルギーの一部を失うことになるのですが,その失われた分のエネルギーがX線として放射されるのです! これが連続X線の正体!!
連続X線の正体がわかると,X線スペクトルのグラフが,ある地点より左側(エネルギーが高い側)に存在しない理由もわかります。
固有X線について
陰極から出た電子はすべて曲がって進むわけではなく,いくつかは陽極原子にぶつかり,電子を弾き飛ばします。
ここで化学で習った知識を思い出しましょう。 原子の周りにある電子は,基本的に内側の電子殻に入ろうとします(K殻から順に埋まっていく)。 原子核に近い方がエネルギーが低く安定しているため,電子は安定を求めて内側にいこうとするわけです。
だから,内側にあった電子が弾き飛ばされて空きができると,その空席を狙って外側にいた電子が即座に移ってきます。
ところで,内側の電子殻は外側の電子殻よりもエネルギーが低いので,そのまま移動するとエネルギーが余ります。 その余った分のエネルギーがX線(固有X線)として放出される!
外側の殻と内側の殻のエネルギーの差は原子の種類によってあらかじめ決まっている。
↓
移動によって余るエネルギーも決まっている。
↓
放出されるX線のエネルギーも決まる。
↓
エネルギーが決まれば波長も決まる。
ということです。
「原子の種類によって固有X線の波長が決まる」ということを逆手に取ると,固有X線の波長を調べれば,発生源の元素が特定できることになります(固有X線による元素分析)。
加速電圧の変更によるスペクトルの変化
最後に,陰極線から出た電子を加速するのに使う電圧(加速電圧)を上げたらどうなるかについて考えてみましょう。
まず,固有X線の波長は陽極に使う材質で決まるため,電圧を変えても変化しません。
ところが連続X線については事情が異なります。 加速された電子がもっていたエネルギーの一部が連続X線になるので,加速によって電子のエネルギーが大きくなれば,より高エネルギーの連続X線も得られることになります!
このスペクトルの変化は問題でよく見かけますが,2種類のX線のちがいを理解していれ簡単。丸暗記に走らないように!!
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
X線の正体は電磁波。光の正体も電磁波。 光には波の性質と粒子の性質がありましたが,X線にもあるのでしょうか?