「保存力」というワードを覚えていますか? 前回学習した静電気力は,実は保存力の一種。 保存力の性質でもっとも重要なのは,保存力ならば位置エネルギーを計算することができるという点です!!
↑の記事の中で予告した通り,静電気力による位置エネルギーが今回いよいよ登場します!
重力との比較
「位置エネルギーが存在する」なんてサラッと言っちゃいましたが,重力による位置エネルギーの場合と比較すると,位置エネルギーの存在が納得できると思います。
(※ここでは,電場の大きさEはどこでも一定と仮定しています。)
ね? 質量mの物体が重力に沿って落ちていくのと,電気量qの点電荷が電場に沿って「落ちて」いく様子は図にしてみるとそっくりです(※以前の記事ではF=qEのqに絶対値をつけていましたが,今回は電荷の符号のちがいも含めて考えたいので,絶対値を外しています)。
現象がそっくりということは,その背後にある物理法則もそっくりのはず。
通常の物体が,位置エネルギーを運動エネルギーに変えながら落ちていくのなら,電荷だって位置エネルギーを運動エネルギーに変えながら「落ちて」いくはずです。
重力による運動と静電気力による運動。 このようにたしかに似ていますが,一箇所だけちがう点があります。 それは,物体は鉛直下向きにしか落ちないが,点電荷は電場の向きや電気量の符号によって,受ける力の向きが変わるという点です。
つまり,場合によっては「上向きに落ちる」こともあるわけで(落ちるという表現が正しいかは置いといて),そこが重力との決定的な差です。
2つのモノを比較するときは,似ている点と異なる点の両方をしっかり意識しましょう!
位置エネルギーを求めるには
静電気力にも位置エネルギーが存在するということがわかったので,次に問題になるのはその計算方法です。
重力による位置エネルギーの場合はmgh,つまり,質量m,重力加速度g,高さhを用いて計算しましたが,静電気の位置エネルギーもまずは同じように考えてみましょう。
m,g,hに対応している文字をそのまま当てはめただけですが,結論から言うとこの式は正しいです。 しかし,注意すべきはこの式の見方。 重力による位置エネルギーの式mghは,m×g×hと見るのではなく,mg × hと見るのが正解。
もともと「エネルギー=仕事」なので,重力mg × 距離hというわけです。 静電気力による位置エネルギーも同様に,静電気力qE × 距離dと考えられます。
…同じじゃねぇか!って? いえ,ここからが大事。 実は静電気力による位置エネルギーには,もう1つの解釈があります!
それは,q × Edという見方です。
重力で同じ見方をしようとすると,m × ghなってしまって,「ghって何??」って感じなのですが,電気の世界ではEdはとても重要な意味をもっていて,「電位」と呼ばれています。
電位は記号Vで表すことが多く,この記号を用いると,V=Edとなります。
よって,位置エネルギーの式をVを用いて書き換えると,U=qVとなります。
この式を見て分かるとおり,静電気力による位置エネルギーUは,電位が一定ならば電気量qに比例します!
また,q = 1Cを代入するとU = Vとなるため,「電位 = 電荷1Cあたりの位置エネルギー」と解釈可能。
静電気力による位置エネルギーは「力 × 距離」と「電位Vを求めて,それをq倍する」という2通りの解釈が可能ということになります!
静電気力のする仕事
エネルギーが求められるようになったので,仕事も計算することができるようになりました!!
この仕事の式を少し変形させてみると…
さっき電位という言葉が出てきたとき,「電位差」というワードを思い浮かべた人が多いのではないでしょうか? 電位差とは電圧の別名でしたね!
物理基礎では「電圧とは,電気の世界における高さ」と表現しましたが,なぜ「電圧=高さ」なのか,ここでようやくその根拠が示されたことになります。
このイメージはこれから先(特に回路の問題)も大事にしてほしいと思います。
なぜ電位という概念を持ち出すのか
話は少し戻りますが,力学ではghに何の意味もないのに,電気ではEdにわざわざ「電位」という名前までつけて意味づけしているのはなぜでしょう?
それは,電位が直接測定できる量だからです。 力学でもしghを求めようと思ったら,まず高さhを測定して,その後gをかけ算して求めることになります。
ところが電気の場合,たとえば電気回路なら,電圧計を用いればEとdが分からなくても,電位Vを直接求めることができます。
つまり,仮に力学でghに何か名前をつけて記号を与えたとしても,位置エネルギーを求めようと思ったら,結局mとgとhをそれぞれ求めなければいけません。
一方,電気では必ずしもqとEとdを求める必要はなく,qとVでも求められる。 これが力学と電気の大きなちがいであり,わざわざEdに「電位」と名付けている理由でもあります。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
静電エネルギーという用語は,物理では別の意味で用いられます(いずれやります)。
次回予告
電位が分かれば位置エネルギーが求められるということなので,次回は電位の求め方を扱っていこうと思います。