今回は道具を使ってする仕事について考察します。
何か仕事をするときに道具を使う理由はもちろん,「使ったほうが便利だから」ですが,具体的にどう便利になるのかを物理的に考察しましょう。
てこはどこを押す?
道具といっても,機械のような仕組みが複雑なものでなく,わかりやすいように原始的な道具で考えていきます。 教科書にはよく動滑車の例が載っているのですが,ここではてこを例にして話をしたいと思います。
では早速ですが質問。 てこを使って物体を持ち上げようと思います。 あなたならどこを押しますか? 下図の①〜③から選んでください!
選びましたか? おそらく,①を選んだ人が多いんじゃないでしょうか?
①を選んだ理由は何でしょう?
もちろん「支点から遠いほうが小さい力で済むから」ですよね?
小学校で習った「てこの原理」です。
てこの原理は当然正しいのですが,ここで改めて考えてほしいのは,「本当に①を選ぶのが得策なのか?」ということ。
てこを一番下まで押した状態と最初の状態と照らし合わせると,
この図を見れば一目瞭然です。 てこを見ると条件反射で①を選ぶ人が多いですが,①は加える力は小さくて済むけれど,その分長い距離を押す必要があります。
一方,③は大きい力が必要ですが,短い距離で済みます。 ②は力も距離もその中間です。
小学校の理科では力に注目するので,①を選ぶのが正しい!みたいな風潮がありますが,押す距離が長くなるというデメリットを考えると,①を押すのが絶対に正しいとは言えないと思いませんか?
仕事を考えるとどこも同じ?
てこは押す力だけでなく,押す距離も考えなくてはいけないということがわかりました。
力と距離の話なので,ここで前回学んだ仕事(=力 × 距離)の出番!
押す側にとって一番楽なのは,仕事量が一番小さくなるところを押すことです。
ということで早速①〜③で仕事を計算すると,
①を押したときの仕事=小さい力 × 長い距離
②を押したときの仕事=中ぐらいの力 × 中ぐらいの距離
③を押したときの仕事=大きい力 × 短い距離
となって,どれが一番小さいのかよくわかりません。
結論を言うと,実は①も②も③もすべて同じ値になります!
道具を使って仕事をするとき,加える力が少ないと,その分動かす距離が大きくなる。 結果,道具を使わないときと仕事の量は変わらない。
これを「仕事の原理」と言います。
これはてこ以外のどんな道具に対しても成り立ちます。 最初に挙げた動滑車もそうです。
うーん… 道具を使っても仕事が変わらないなら,道具を使う意義はどこにあるのでしょうか??
仕事の効率
日常生活で「仕事ができる人」といったら,それはきっと「仕事をこなすのが速い人」を指すのだと思います。 同じ仕事量なら,速くこなしたほうが効率がいいですよね!
この概念を物理における仕事にも適用します。 30秒で600Jの仕事をするAさんと,20秒で200Jの仕事をするBさんとでは,どちらが効率がいいでしょうか?
基準がないと比べられないので,時間を基準に考えます。
それぞれ1秒間にする仕事を計算してみると,Aさんの場合は,600J ÷ 30s =(1sあたり)20J。 Bさんの場合は,200J ÷ 20s =(1sあたり)10J 。
これならどちらがより効率がいいか一目瞭然!
いま求めたような,1秒間あたりの仕事を「仕事率」と呼び,単位はW(ワット)で表します。
つまり,AさんとBさんの仕事率はそれぞれ20Wと10Wということで,仕事率が大きいAさんの方が効率がいいと判断できます。
余談ですが,仕事率を英訳するとPowerです。 昔は仕事率を「馬何頭分か」で表していた(いわゆる馬力というやつ)ので,それに由来しています。
普段の感覚だと,Powerは「力」と訳したくなりますが,物理ではそれは間違いなので注意してください(物理でいう「力」は,英語ではForce)。
てこの問題ふたたび
仕事率の概念を学んだところで,最初の問題に戻りましょう。「てこのどこを押すか」問題です。
仕事の原理により,どこを押しても仕事の量は変わらないことが分かりました。
しかし,仕事の量は変わらなくても,仕事率は変わる可能性があります!
いくら加える力が小さいとはいえ,動かす距離が大きければ,そのぶん仕事を終えるのに時間がかかってしまいます。 動かす距離もなるべく小さいほうがいい。
つまり,「自分が無理なく押せる範囲で,もっとも支点に近いところ」を押せば仕事率が最も大きくなり,これが賢いてこの使い方といえるでしょう!
とにかく端っこを押せばいい!という短絡的な発想からは卒業しましょうね!
今回のまとめノート
最後のP=Fvはそんなに使わないけれど,教科書には書いてあるので一応載せました。
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
次回は,力の話に一度戻ります。