今回は,電流が磁場から受ける力の式に登場した,比例定数μ(透磁率)が主役です。透磁率は単なる定数ではありません! その意味について詳しく見ていきましょう。
誘電率と透磁率
透磁率という名前は,以前学習した誘電率と何となく似ている気がしませんか?
透 ↔ 誘 … 部首が違うだけ ⇒ 似てる!
磁 ↔ 電 … 磁気と電気 ⇒ 似てる!
率 ↔ 率 … 同じ ⇒ 同じ!
…まぁ,1文字目の類似は漢字が生んだ偶然でしょうが,実際にこの2つは類似した概念です。
以前学習した誘電分極を思い出しましょう。 電場の中に置かれた誘電体(を構成する原子)は,原子核と電子の位置に偏りが生じ,正の電気をもつ側と負の電気をもつ側に分かれるのでした。
実はこれと類似の現象が磁場でも起こります。 磁場の中に置かれた物質にはN極とS極が生じる(=磁石の性質を帯びる)のです!
この現象を磁化と呼びます。 そして,誘電率が物質の誘電分極の度合いを表す値なのに対し,透磁率は物質の磁化の度合いを表す値です。 似てる!
磁化の種類と透磁率
磁化という現象はおそらく知っているはずです。 鉄の磁化が一番有名ではなかろうか?
しかし鉄以外の身近な金属(アルミニウムや銅)で同じ現象が起こるかというと,残念ながら起こりません。 このことから,磁場から受ける影響は物質の種類によって異なることがわかります。 このちがいを数値化したものが透磁率なのです。
また,透磁率を直接数値で表す他に,比透磁率を用いて表すことも多々あります。 誘電率のときも比誘電率が登場しましたが,それとまったく同じ考え方!
誘電率と透磁率,似すぎかよ!
鉄の比透磁率は非常に大きく,アルミニウムや銅の比透磁率は1に近い値です。 ちなみに,アルミニウムと銅はまったく磁化しないわけではなく,アルミニウムは磁場の方向に弱く磁化し,銅は磁場と逆方向に弱く磁化します。 アルミニウムも銅も一応磁化するけど,弱すぎて磁石としては機能しない,と理解してください。
さて,先ほどから鉄,アルミニウム,銅を例に出していますが,その他のすべての物質(液体,気体も)も例外なく磁化します。
そしてどの物質も,磁化のパターンは上の3種類,
① 磁場の方向に強く磁化する(鉄と同じパターン・磁石にくっつく)
② 磁場の方向に弱く磁化する(アルミニウムと同じパターン・磁石にはほとんど反応しないが,くっつく方向に力を受ける)
③ 磁場と逆方向に弱く磁化する(銅と同じパターン・磁石にはほとんど反応しないが,反発する方向に力を受ける)
のどれかに該当します。 この3パターンにはそれぞれ名前がついていて,①のように磁化する物質を強磁性体,②のように磁化する物質を常磁性体,③のように磁化する物質を反磁性体と呼びます。
磁性体の種類と比透磁率の関係は ↓
高校物理では磁性体に関する詳しい話には触れないので,紹介だけにとどめておきます。
磁場と磁束密度
電流が磁場から受ける力について話を戻しましょう。 物質の磁化の度合いを表す透磁率が,どうして磁場から受ける力の式の中に含まれていたのでしょうか?
それは,磁石や導線の周りになにか物質がある場合,その物質が磁場から影響を受け,その影響が最終的に導線にはたらく力に影響するからです。 改めて前回の式を見てみると,
今はまだこの1本しか式がないので,ちょっと説得力に欠けるところがありますが,この考え方は的を射ていて,磁場を使った計算をしようとすると必ず H とμがセットで登場します。
磁場を使った計算では周囲の物質の影響がどうしても無視できないからです。 そこで編み出されたのが磁束密度という概念!
磁束密度を使えば,余計な比例定数が現れず,式がエレガント。 問題集などを見てもらえばわかりますが,磁気の関係する問題では,磁場の強さHではなく,はじめから磁束密度Bが与えられていることのほうが多いです。
磁束密度の詳しい説明をはじめると記事が長くなりすぎてしまうので,それは次回のお楽しみにとっておきましょう。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
磁場に周囲の物質の影響を加えたものが磁束密度と書きましたが,物質の影響で磁場は具体的にどう変わるのでしょうか?