物理基礎・熱力学分野の最後は熱力学第2法則について学んでいきましょう!
可逆変化
2つの状態A,Bがあって,状態Aから状態Bになる現象と,状態Bから状態Aになる現象がどちらも “自然に” 起こるとき,この現象を可逆変化と呼びます。
これだけではイメージしにくいと思うので,具体例を挙げましょう。 可逆変化の具体例は振り子の運動です(空気抵抗は無視する)。
振り子のおもりが左の最高点にある状態をA,右の最高点にある状態をBとします。
振り子は往復運動をするので,AからBへ向かう運動と,BからAに向かう運動はどちらも “自然に” 起こります。
不可逆変化
振り子の話が熱と何の関係があるのかというと,全然関係ありません(笑)
熱に関係があるのは,可逆変化ではない方です!
状態Aから状態Bになる現象と,状態Bから状態Aになる現象のうち,片方は “自然に” 起こるが,もう片方が “自然に” 起こらないとき,この現象を不可逆変化と呼びます。
不可逆変化をコーヒーを例に説明しましょう。コーヒーが熱い状態をA,コーヒーがぬるい状態をBとすると,AからBは “自然に” 起こります。
たとえば熱いコーヒーを部屋に置きっぱなしにすれば,それだけで勝手にコーヒーは冷めます(熱平衡)。 ところがその逆,BからAは “自然に” 起こりません!
※ さっきから “自然に” を強調していますが,これは「特別な操作をしない」という意味です。 コーヒーの例だと,BからAは自然には起こりませんが,道具(火や電子レンジなど)を使って加熱すればコーヒーは熱くなります。
可逆変化なのか不可逆変化なのかを判断するときは「道具を使えば」や,「力を加えれば」などを除外して考えてください。
熱の移動方向と熱力学第2法則
不可逆変化のポイントは熱の移動方向。 熱は温度の高い方から低い方へしか移動できません。 一方通行なのです。
水に氷を入れると水から氷へ熱が移動するので,水の温度は下がって,氷の温度は高くなります。 しかし,その逆はありえません!!
氷の熱が水に移動して,水が氷を入れる前より温かくなった,なんて経験はありませんよね?
このように温かいものと冷たいものがあると,温かい方は冷たくなり,冷たい方は温かくなってやがて熱平衡状態に達します。
温かい方がより温かくなって,冷たい方がより冷たくなることはありません。 経験上当たり前に思えることですが,実はこれ,今までに習ってきた物理法則からは説明できません!
そこで,「熱は高温の物体から低温の物体に移動し,その逆は自然には起こらない」という事実を新たな物理法則として採用して,熱力学第2法則と呼ぶことにしましょう。
さて,振り子は空気抵抗がなければ可逆変化ですが,空気抵抗があれば空気との摩擦によって力学的エネルギーの一部が摩擦熱になってしまうので,振り子はやがて止まってしまいます。
一度止まった振り子が空気中の熱エネルギーを吸収して再び動き出すことはありません。 つまり,空気抵抗がある場合には振り子の運動も不可逆変化です。
このように,現象に熱が絡んでくると,第2法則によって「熱の一方通行」が起こるので,結果的にその現象は不可逆変化になります。
摩擦や衝突があればどうしても熱が発生してしまうので,結果的にこの世界は不可逆変化だらけということになります。 決して元には戻れません。 時間を過去にさかのぼれない理由は熱力学第2法則にあるかも?
熱力学第2法則の別の表現
この熱力学第2法則からは色々と興味深い結論が得られるのですが,前回やった熱機関について,熱力学第2法則から「熱機関の熱効率は決して1(100%)にはならない」ということが証明できます(計算は高校物理の範囲を超えるので省略)。
逆に,熱効率が決して1にならないことから,「熱は高温の物体から低温の物体に移動する」ことを証明することもできるので(この証明も省略),「熱力学第2法則とは,熱効率が1にならないことである」と表現しても構いません。
このように熱力学第2法則には異なる表現がいくつか存在します(興味のある人はぜひ調べてみてください!)。
ところで永久機関というものをご存知ですか? 一度動かしたら永遠に動き続ける装置のことで,歴史上多くの人がこれを夢見ては敗れ去っていきました。
永久機関とはエネルギーロスがない(=熱効率が1)機械のことなので,熱力学第2法則から永久機関は絶対に作れないことがわかります。
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
さて,このサイトでは高校物理の範囲を超える話題は原則扱わないことにしているので第2法則の話もこれで終わりにしますが,本当はもっともっと奥が深い法則です。
例えば「省エネ」という言葉がありますが,我々はすでに「エネルギーは保存する」ということを学んでいます。 よく考えるとこれは矛盾しているように思えませんか?
エネルギーは保存する(=使っても減らない)のに,どうして省エネを心がける必要があるのでしょうか?
これに対する答えも熱力学第2法則が握っています。 気になった人は各自調べてみてください。
次回予告
物理基礎の熱の分野は今回で終了。 このあとは基礎じゃない方の「物理」に突入します。
物理基礎の熱とはまた違った内容になっており,力学の知識が必要な部分もあります。 物理基礎の内容を一通り(補講も含めて)復習してから進んでください。